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「ナンバーワンになりたい」の一言で、 サガミへの転職を決意。

サガミホールディングスに入社されたきっかけを教えて下さい。
実家が寿司店を経営していたので、私は小さい頃から飲食店に慣れ親しんで育ちました。寿司も握れるし、魚も捌ける。サガミに入る前から調理師免許も持っていました。しかし、両親の苦労を見てきたから飲食店で働くのは嫌で、普通の会社員がいいと思っていました。色々あって車の販売店で働いていたのですが、そのときのお客様が偶然当社の創業者の妹さんで、その縁で栗本さんを紹介されました。ちょうど今若い人を募集しているから、サガミで働くことを検討してくれと言われて。平成元年当時、まだまだサガミの店舗数は少なかったです。愛知県でもこういう和食麺類のチェーン店はあまりなく、東海3県のうどんそばチェーン店は3企業ほど。その中でサガミは3位でした。1年間悩みましたが、栗本さんの「ナンバーワンになりたい」という言葉がきっかけで入社を決めました。いくつかの店舗で食事をし、料理も美味しくて、働く人が元気だったので、この会社は将来伸びるな、とも思ったのです。入社するのなら、せめて店長とか課長になれたらいいなと思って、店長を目指して働き始めました。
会社が社員に寄り添うことで、企業はより発展する。
社長に就任されてからの会社の方針を教えて下さい。
前任の鎌田社長から引き継いだ「高い目標を持つ」「誰にも負けない」などもありましたが、基本は社員に寄り添う社長になりたいと思っていました。「社員・パート関係なく、みなさんと共に発展していく」、社員には「自分が1番、家庭が2番、会社は4番目くらいで良い」という考え方です。寄り添うにはどうすべきか。まずは所得を増やすために、会社の業績を良くしなくてはいけないと考えました。ただ、業績を良くするといっても数字に走るだけでは変な方向に行ってしまうと思ったので、はじめに意識したのは働く従業員、組合の話をよく聞くことです。とにかく人の話を聞く、というのが基本。あとは、お客様視点を大事にしようと思いました。お客様の声を重要視して、企業の発展を実現させよう、と。今、会社の発展よりも、働く従業員の皆さんに「幸せ」と思って頂けるような仕組みづくりをやっています。数字はあとからついてくると思っています。企業というものは永続的に続くことが可能ですから、100年、200年続く会社にしたいと思っています。そのためにはやはり、常に人を大切にする企業風土をつくること。従業員やお客様、株主様、取引先様などステークホルダーのみなさんにとって、良い会社、心のある会社になって欲しいと思いますね。まだまだ道の途中です。
人員システムを根本から見直し、 独自の働き方改革に着手。

社長に就任されてから最も印象に残る取り組みを教えて下さい。
飲食業って、人材産業なんです。今、飲食業の人材不足が叫ばれていますが、実は飲食業は昔から人材不足で、今に始まったことではありません。しかし私は、勤務時間や休暇の問題、残業の問題にきちんと向き合えば改善されるのではないか、と昔から思っていました。だから営業本部長になって1年目、少し数字が良くなったときに、まず配当を出すようにして、ボーナスもある程度出すようにしました。それと、春と秋にリフレッシュ休暇を取りましょうと提案しました。しかし、まずは部長5人に取るよう言うと「我々が連休を取ると、ブロックマネージャーや店長に“良いな、部長ばっかり”と言われるのではないか」と言われたのです。そこで、「いや違う、逆の発想だ、取りやすくなるんだ」と言いました。上の人たちが取ることで、社員も取りやすくなるのだということを説明したのです。
さらに、給料明細に有給休暇の残日数を記載しようとも提案しました。この人材不足の時代に、と周囲は大反対。そこで、将来的には社員中心ではなく、もっとパートの方のスキルを活かしましょうとも提案しました。もっと任せて “その仕事ができたら時給上げる”というやり方が良いと思ったのです。もちろんパートさんにも有給を取ってもらいます。だから、今年の4月の有給休暇の義務化はあまり痛手ではありませんでした。このときに変えておいて良かったと実感しています。
それくらい人を大切にしなくてはと強烈に思っていたのですね。
まずは社員やパートさんが辞めないようにサポートすることだと思っていました。入社を募るよりも定着率を上げることが、会社にとって一番大事。昔から「私のスタンスは味と人を大切にすること」と口では言っていましたが、当時の会社は違いました。気合いと根性で働け、という風土がありましたから。なので、自分が社長に就任してからは、楽しく良い雰囲気で働けてお客さんにとっても良い雰囲気の店をつくる。これだけをずっと言い続けています。社員の元気、パートさんの元気がなければ良いサービスはできない。そのためにはきっちり休んで頂く、残業手当も有給休暇も取ってもらうように変わりました。
サガミ発展のキーワードは 「インバウンド」と「海外出店」。

これから力を入れて取り組もうとしていることはありますか?
6年くらい前から訪日外国人の方の来店が増えてきました。私が営業本部長の頃、これからインバウンドが増えると想定して、いろんな旅行会社さんにサガミの店でお昼を、と営業していたのですが最初は全部断られました。ですが、ある一社だけ面白そうですね、と言ってくれたのです。そこから「インバウンド対策」がスタートしました。最初は年間売り上げ獲得に苦戦しましたが、今は数千万円になりました。ちょうど良いことに彦根城のすぐそばに店舗があったり、御殿場の店舗なんて富士山がバーンと見えたり。割とサガミの店舗は旅行者にとって都合の良い場所にあるので、それを活用しました。
海外だとタイのバンコク、ベトナムのホーチミンに展開しています。去年はイタリアのミラノにイタリア1号店をオープンさせました。売り上げ推移も順調なので、これであと1年、2年やってみて、状況が良ければ、物件もありそうなので少しずつ出店していきたいと思っています。ただ、海外はほとんど赤字なのが現実。でも、将来的に日本の人口は減ると言われていますから、そうなると海外に求めることになります。今のうちから地道に海外の出店を増やしていきたいと考えているのです。
社員の声を聴いて、 モチベーションアップできる環境をつくる。
社員を育てるためにしていることはありますか?
私のスタンスは、味と人。人材産業であること。私が店長会議でよく言っているのは、「人の話をよく聞け」ということ。聞く耳を持つことを大事にして、人間関係を円滑にする努力をしなさいと伝えています。人が辞める最大の理由は、給料が安いからとか休みが取れないからじゃない。みんな人間関係に悩んで辞めていく。人間関係を円滑にするようにやろうね、と常に言っています。毎年総会が終わってからやっている「社長意見交換会」というものもあります。全店、パートさんの代表に来てもらって、私が会社の方針や皆さんにお願いしたいことを言ったり、みなさんが会社に聞きたいことを聞いたりと、意見を伝え合う場になっています。ときには、全店の社員を集めて開くこともあります。260店舗だから、結構ハードです。
あとは皆さんのモチベーションを上げるために社長賞をつくるなど、何かと表彰できる場を設けています。研修費用は、数千万円をかけ人材育成を実施。当社では企業規模で平均とされているよりも、多くの研修費用をかけています。これは会社の方針で、いくら会社の業績が良くなくても研修にはお金をかけるのです。学んでもらうことを大切にしていますし、自分自身も学ばなくてはいけないと思っています。
グループ企業ではリーダー育成に力を入れられているとのことですが。
まず、分社化することでポストを増やしました。分社化の影響で数年前から店舗の出店を再開し、店舗数が増えたのです。その分ポストも増え、「同期には負けない」「ブロックマネージャーになる」と目標をもって頑張る社員も出てきたので、従業員のモチベーションアップに繋がったと思っています。しかし、ポストが増えたからそれを掴んで終わり、ではなくそのポストに就いてからの仕事が大事だということも伝えています。肩書きが付けば給料が上がるといいますが、それと同時にものすごい責任を背負うことになる。ブロックマネージャーになりたいという社員に「じゃあこれとこれはできるのか」と聞くと、「できていません」ということもある。やっぱりポストっていうのは、掴んだあとが大変なんだよと日々言っています。掴んだらたくさんの人たちの生活を守らなくちゃいけないのだから頼むよ、とも伝えています。
分社化の影響としては、新しく組織化された管理部門や購買調達部門の社長職になれるというところもあると思います。そういう動きが活発になっているので、まだまだ現場の人には関係なかったとしても、会社が変化しているということ自体がモチベーションになっているのではないかな、と感じています。
頑張ったことは、 一生の糧になるから。

これから社会人になる方々、リーダーになる若い方々へメッセージをお願いします。
「若いときにやっておいた方が良い」といろんな方が言われているかと思いますが、私は一生懸命やっていれば必ず良いことがあると思っています。一生懸命やっても、何も良いことがないと思ったこともありましたが、若いときは不平不満を言わず、自分のために一生懸命やるのが良い、というのがアドバイスかなと思います。それともうひとつ、伊藤忠商事の元会長の丹羽宇一郎さんの言葉で「清く正しく美しく」という言葉があります。常に公明正大であり、嘘をつかない人であると。美しいとは心が美しい、正しいということ。「正しくある」って意外と、守れそうで守れていないと思うのです。私はそういう人間であり続けたいと思っています。
社名・役職などはインタビュー当時のものです。
インタビュー:2019年5月