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「幸楽苑の息子」と言われるなら、 徹底的に家業を追いかけていこうと決意

幸楽苑の創業家に生まれ、いつ頃から家業を継がなくてはと意識されましたか?
意識はしていませんでした。継がなければというよりは、継ぎたくないという気持ちが小学生の頃からずっとありましたね。親は「継ぎなさい」ということは一切言いませんでしたが、継ぐのが当たり前という感じでいろいろ話していました。それに対して反発心と言いますか、子供心にも嫌だと感じていました。中学生、高校生の頃は「私は私の道を行く」という考えになり、大学卒業後、一般企業に就職しました。
その後、どのような経緯で幸楽苑に入社されたのですか?
社会に出たら、社長だった父が小さい頃に話していた夢やビジョン、志にだんだん共感するようになりました。一歩外に出て、自分の家や家業を客観的に見ることができたのは、良かったのかもしれません。
また、他の企業に就職しても、「幸楽苑の息子さんですね」と言われるなど、自分が幸楽苑の創業者の血縁だということを、良かれ悪しかれ意識させられました。この看板や生い立ちというのは自分の中から消せないなら、徹底的にそこを追いかけていくしかないとも感じましたね。
そうしたことがあり、一般企業で5年間務めたのちに、幸楽苑への入社を決意しました。
幸楽苑入社後は現場の仕事を中心に携わり、 5年間他企業へ出向も

入社してから社長に就任するまでは、どういった仕事に携わられてきましたか?
入社して現場作業が分からないとどうしようもないため、まず名古屋の店舗に着任しました。エリアマネジャーやディストリクトマネジャー(エリアマネジャーの上の職位)に携わり、OJTで指導を受けたのち、京都工場、小田原工場で半年ほど勤務しました。その後、郡山の本社へ戻り、商品企画部、経営企画部、店舗運営部などマーケティングから企画まで幅広く携わりました。
そんな中、ご縁があり楽天株式会社へ3年間出向しました。その後アリアケジャパン株式会社という、弊社のスープの供給元の会社に2年間出向しました。5年間、外で勉強と経験を積み、2011年に幸楽苑へ戻りました。
戻ってからは、取締役海外事業本部長として主にタイで新店舗を展開する海外事業に携わりました。
「新幸楽苑戦略」を実施して、 2018年は業績がV字回復に

2018年から「新幸楽苑戦略」を実践されていますが、具体的な内容を教えて下さい。
具体的戦略は、4つあります。
1つ目が「味の改革」。簡単に言いますと、商品をおいしくしようということです。
2つ目が「マーケティング手法の抜本的転換」。これは、今まで長い間折り込みチラシを中心とした販促に頼っていたので、時代に合わせてテレビCMやSNSなどいろいろなものを組み合わせて効果的なマーケティングを展開しようということです。
3つ目が「保有資産の活用と店舗ポートフォリオの最適化」。今までは業績不振の店舗は閉店するだけだったのですが、それをフランチャイズ契約している「いきなり!ステーキ」や「焼肉ライク」に転換し、有効活用することです。
4つ目が「筋肉質な経営」。つまりコストです。これは、無駄なものにお金を使わないで、売上につながるテレビCMなどにお金をかけるということです。
こうした方針をもとに、2018年5月に「新幸楽苑戦略」を打ち出し、1年間走ってきた結果、業績をV字回復させることができました。
V字回復ができた一番の鍵は、 「従業員のモチベーション」

V字回復できた一番の要因は何だと思いますか?
一番の要因は、従業員の一体感やモチベーションを上げられたことです。良い戦略を立てたとしても、結局は働く人が実行するのですから、そこをケアしないと実現は難しかったと思います。
具体的には、役員を含め、全店長を集めて今までのことを反省し、みんなで一生懸命やろうと全店長と固く握手を交わし気持ちをひとつにしました。そして、社員やパート関係なく成果を出した人へインセンティブを出し、頑張れば評価される制度を作りました。
また、「本社からの細かいマニュアルは気にせず、とにかくたくさん売って下さい」と伝えたところ、店舗ごとに創意工夫をするようになりました。例えば注文が入ったら店にいる全員で「ありがとうございます」と連呼するようにしたり、拍手をしたりすることを主体的にやるようになったところもありました。
働き方改革も進め、大晦日の15時から元旦に、一部店舗を除くほぼ全店舗を休業にしました。従業員は大変喜んでくれて、ある店のパートさんからは、「事情があり、毎年年末年始は自分だけ休んでいてみんなに申し訳なかったが、今回は全員で休めるのが嬉しい。休業を決断してくれた社長にお礼を言いたい」と手紙をもらいました。この手紙は本当に嬉しかったですね。
2日間の売上と利益がなくなるのは、小さいことではありません。しかし、今後10年、20年という長い目で見たときに、年末年始を休みにして従業員の皆さんにゆっくりしてもらうことは、絶対にプラスになるという信念で実行しました。
古典から学ぶリーダーの心得

社長ご自身がモチベーションを高めるために実行していることは何ですか?
日本や中国の歴史を描いた古典を読むことです。時代が変わっても理想のリーダー像というのはそれほど変わらないと思うからです。
『貞観政要』という本に、良いリーダーと悪いリーダーについて書いてあるのですが、良いリーダーと言うのはいろいろな人の意見を聞く、悪いリーダーと言うのは特定の偏った人の意見しか聞かないとありました。こういう本を読むと、時代は変わっても、国も会社もリーダーになる人の根本的な資質はそれほど変わらないと実感します。私も努力して魅力的なリーダーになっていかないといけないと思っていますが、自分だけではなく、いつの時代もトップに立っている人は悩んでいたのだなと、古典を読むことによって勇気づけられます。
社長はどんな部下と働きたいと思いますか?また、若い世代に伝えたいことはありますか?
自分の意見を持っている人です。最終的に判断をするのは社長ですが、社長の意見がすべて正しいわけではありません。今後の戦略を考える場でも、上の人の意見に対して、正しくないと感じたときや、より良い意見があるならば、その考えや裏付けするデータを提示し、しっかりとディスカッションできる人が良いですね。
若い頃はいろいろと悩んだり迷ったりするときですが、自分が進みたいこと、やりたいことを追求していくことが幸せになることだと思います。ぜひ自分の考えと信念を持って、まわりに流されることなく未来を切り開いていってほしいですね。
健康に良い、おいしいラーメンをこれからも提供していきたい

食べることは人間にとって一番重要なことですし、楽しいことです。
そうした「食」の分野に関わることで、意識していることは何でしょうか?
弊社の経営理念は「我々は我々が提供するラーメンと食を通じて世界中のお客様を幸せにする 〜Japanese Ramen to the world〜」です。そして世界中の人を幸せにすると同時に、食べることはその人の体を作ることにつながるため、お客様の健康にも配慮しなければとも考えています。そのためにも、これからは「おいしくて、健康にも良いラーメン」を提供できるよう、より意識をしていきたいですね。
また、ラーメンを提供する上で、原点となる思いも忘れていません。2015年5月に販売を終了した「290円(税抜)中華そば」は、長い間幸楽苑の看板メニューとしてお客様に愛された商品ですが、290円という圧倒的な価格は、少しでも多くの方においしいラーメンを安く提供したいという創業者の思いによるものでした。これは、我々の原点です。現在は味もブラッシュアップし、中華そばの値段は440円(税込)ですが、これからもリーズナブルな価格で、1杯1,000円やそれ以上の価格のラーメンに匹敵する味を提供していきたいと思っています。創業者の思いを大切に残しながら、世界中の人に弊社のおいしいラーメンを食べて喜んでもらいたいです。
社名・役職などはインタビュー当時のものです。
インタビュー:2019年8月